厚生労働省の助成金には、人を雇い入れる際の助成コース、雇い入れた後の助成コースがあります。ここで紹介する「人材開発支援助成金」は主に雇入れた後に適用でき、労働者を教育・訓練を実施した場合に賃金の一部が助成されるコースです。

人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)とは?

この人材開発支援助成金には7つのコースがあるのですが、ここでは特別育成訓練コースについて見ていきましょう。

さらに特別育成訓練コースの中には4種類の訓練体系がありますが、その中の「有期実習型訓練」を取り上げています。

有期実習型訓練は、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者に対して職業訓練を実施した場合に助成されるコースです。
このコースは新たに雇い入れる場合(基本型)、既に雇用している場合(キャリアアップ型)の、両方の労働者に適用できます。

対象となる労働者

・従来から雇用されている有期契約労働者等、または新たに雇い入れられた有期契約労働者等であることで、次の項目のいずれにも該当する労働者。

(ア)ジョブ・カード作成アドバイザー等により、職業能力形成機会に恵まれなかった者として本コースに参加が必要と認めれれ、ジョブカードを作成した者(面談が必要)

(イ)正規雇用労働者等として雇用することを約して雇い入れられた者でないこと

・訓練の終了日または支給申請日に雇用保険被保険者であること。

・事業主が実施する有期実習型訓練の趣旨、内容を理解している者であること

※上記以外でも対象となる条項がありますので、詳しくは厚生労働省の案内をご覧下さい。

ジョブ・カードとは?

個人のキャリアアップや、多様な人材の円滑な就職等を促進するため、労働市場インフラとして、キャリアコンサルティング等の個人への相談支援のもと、求職活動、職業能力開発などで使用されます。

「キャリアプランシート」「職務経歴シート」「職業能力証明シート」の3種類のシートがあり「職業能力証明シート」の訓練成果・実務成果シートで訓練の成果を評価します。このシートは予め事業主が訓練の評価項目を設定し、訓練終了後に評価項目に沿って訓練生を評価します。

対象となる事業主

本助成金コースを受給する事業主は次の要件を満たしておく必要があります。
厚生労働省の「各雇用関係助成金に共通の要件等」をご確認下さい。

この共通の要件に加えて、一定期間で事業主都合による解雇をしている場合は対象にはなりません。他にも離職理由1Aまたは3Aの区分による離職も対象外となります。

受給の条件

対象となる事業主が、対象となる労働者に対して、対象となる措置を実施する必要があります。

それに先駆け、職業訓練計画の認定を受ける必要があります。対象労働者に対して該当する職業訓練を実施するための「職業訓練計画」を作成し、管轄の労働局長の認定を受けておきます。

有期実習型訓練は、Off-JTとOJTによる訓練を行います。

Off-JT 生産ラインまたは就労の場における通常の生産活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる(事業内または事業外の)職業訓練のこと
OJT 適格な指導者の指導の下、事業主が行う業務の遂行の過程内における実務を通じた実践的な技能及びこれに関する知識の習得に係る職業訓練のこと
ポイント

OJTは上司などの指導の下で、普段の仕事を通して、実践的な技能や知識の習得を行う訓練です。外部講師などを招く必要はありません。

有期実習型訓練の場合、次のすべてを満たしていることです。

  1. 実施期間3か月以上6か月以下の訓練であること
  2. 総訓練時間が6か月あたりの時間数に換算して425時間以上であること
  3. 総訓練時間に占めるOJTの割合が1割以上9割以下であること
  4. 訓練終了後にジョブ・カード様式3−3−1−1:企業実習・OJT用により職業能力の評価を実施すること

支給額

本助成金は職業訓練の種類に応じて、1訓練コース支給対象者1人あたり下表に該当する額の合計が支給されます。
 <>は生産性の向上が認められる場合の額、()内は中小企業以外の額

訓練の種類 助成対象 支給額
Off-JT 賃金助成 1時間あたり760円<960円>(475円<600円>)
訓練経費助成 Off-JTの訓練時間に応じた次の金額
20時間以上100時間未満  10万円(7万円)
100時間以上200時間未満 20万円(15万円)
200時間以上 30万円(20万円)
OJT 訓練実施助成 1時間あたり760円<960円> (665円<840円>)

2019年10月1日から大阪の最低賃金は964円/時間になりましたが、上記助成額で生産性要件を満たせば960円/時間、雇用している人の賃金がほぼ支払える金額だと思います。

従業員を雇入れた際には、賃金を支払ながら仕事を覚えてもらうために、当たり前ですが仕事を教えます。この仕事を教える期間の賃金補助の助成金ですので、もらわない理由はないでしょう。

期間は3か月以上6か月以下で、時間は1,200時間の上限がありますが、1,200時間に960円を掛けると115万2千円となります。半分の時間でも57万6千円の助成金がもらえます。

有期実習型訓練コースのもらい方(申請手続きの流れ)

手続きの流れを見ていきましょう。

1 訓練計画届の提出

・職業訓練を実施する前に、訓練計画を作成し、必要書類を添えて管轄の労働局へ提出。
・管轄労働局長の認定を受ける。
・キャリアアップ型の場合は、訓練計画の提出前にジョブカード作成アドバイザーによる面接を受けます。

2 訓練開始届けの提出

・訓練を開始した事業主は訓練開始日の翌日から1か月以内に、訓練開始届けを提出する。

3 訓練の実施

・訓練計画に基づき訓練を実施する。

4 支給申請

・基準日(訓練終了日)の翌日から2か月以内に「支給申請書」に必要な書類を添えて、管轄の労働局へ支給申請する。
・生産性向上助成分を受給する場合、訓練開始日が属する会計年度の前年度から3年度後の会計年度の末日の翌日から起算して5か月以内の提出が必要です。

5 支給決定

・支給決定の審査に時間を要する場合がある。

生産性の向上(生産性要件)とは?

生産性を向上させた企業が労働関係助成金を利用する場合、その助成額または助成率を割増しするものです。

助成金の生産性要件は、支給申請を行う直近の会計年度の「生産性」が、その3年度前と比べて6%以上伸びていることです。

また1%以上(6%未満)の伸びの場合は金融機関から一定の「事業性評価」を得ている必要があります。

生産性要件の計算方法は、厚生労働省のホームページに「生産性要件算定シート」が掲載されていますので、そのシートをダウンロードし、該当する勘定科目の額を損益計算書や総勘定元帳の各項目から転記し算定します。

生産性要件を満たした場合には助成金が割増しされますので、算定の手間はかかりますが活用されると良いでしょう。

生産性要件の詳細についてはこちらもご覧下さい