助成金の不正受給とは

不正受給とは、もともと存在しかった書類を作成したり、実態を偽ったり、その他の不正行為により、本来であれば受けることができない助成金の支給を受けたり、受けようする場合をいいます。

実際に助成金を受給していなくても、申請するだけで不正受給のなります。この不正受給は、書類の偽造によって、公金を搾取しようとする犯罪(詐欺罪)に当たります。

不正受給の書類の偽造例

もともと作っていない「存在しない」書類を助成金の受給を受けるために作成されている事例があります。

例えば、ある事業所Aがもともと出勤簿を作っていなかったのですが、助成金の申請時に「対象労働者の出勤簿の写し」の提出が必要だと分かり、助成金コンサル会社の外部の者が出勤簿を作成し、その写しを添付し提出した例があります。

別の例として、雇用実態と異なる申告を行っている事例があります。キャリアアップ助成金の正社員化コースは、有期契約労働者(非正規雇用)を正規雇用化すれば受け取れる助成金ですが、正社員である雇用者を非正規社員と偽って正社員化し助成金を受給するというものです。

これらの例のように、もともと存在しない書類を作成したり、実態を異なる書類と差し替えたりする例が後を経ちません。

不正受給の逮捕者のニュース

実際に不正受給で逮捕された事件として、非正規雇用の人材育成に取り組んだ事業者を助成する「キャリアアップ助成金」をだまし取ったとして、大阪市淀川区の経営コンサルタント会社代表らが大阪府警操作2課に逮捕されています。

大阪市内の整骨院の院長(30代)と共謀し、整骨院の従業員にキャリアアップ訓練を受けさせたとする虚偽の書類を大阪労働局に提出し、助成金約290万円を詐取したとされています。

さらに同コンサルタント会社は同様の手口で、他にも10件以上の申請をおこなっており、数千万円を詐取した可能性があり、同課が関連を調査しています。

助成金の不正受給で実刑判決となった例として、中小企業向けの助成金をだまし取ったとして、太陽光発電システム販売会社の経営者が懲役2年8か月(求刑4年6か月)の実刑判決が言い渡されています。

別の例では、「中小企業緊急緊急雇用安定助成金」の受給に関して、研修会社と共謀して東京労働局に虚偽の申請をしたというものです。この不正は実際には実施していなかった社員研修をあたかも実施したかのように偽って、研修実施費用、研修実施日の社員の賃金補助などを不正に受給しようとしたと見られています。

実際の不正受給のパターン

不正受給を行った場合、不正受給した助成金の返還が求めれます、さらに事業所名が公表されます。(事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称、所在地、概要、不正受給の金額・内容等)

その公表された不正受給の内容を拾ってみました。

雇用関係助成金等不正受給による公表事案

不正受給を行った場合、不正受給の内容が公表されますが、その公表された不正受給の内容の抜粋です。(事業所名等は記載していません)

助成金名:キャリアアップ助成金
金額:117万円
取り消し年月日 令和元年7月11日
内容:出勤簿等を事実と異なる内容で支給申請を行い、本来受給できない助成金を不正に受給したもの

助成金名:キャリアアップ助成金
金額:240万円
取り消し年月日 令和元年7月8日
内容:既に正社員であった者を非正規雇用労働者から正社員転換したと虚偽の申請を行い、本来受給できない助成金を不正に受給したもの

助成金名:雇用調整助成金
金額:376万30円
取り消し年月日 平成31年1月22日
内容:実際には就労している従業員を休業していると虚偽の支給申請を行い、本来受給できない助成金を不正に受給したもの

助成金名:キャリアアップ助成金
金額:274万2400円
取り消し年月日 平成30年10月10日
内容:虚偽のOff-JT訓練実施状況を提出し、本来受給できない助成金を不正に受給したもの

など、過去3年間分が公表されます。

助成金の不正受給にはペナルティを受けます!

不正受給発覚時のペナルティについて、まず行政処分としては、未遂を含め、助成金の不正受給が発覚した場合、不正受給した助成金の返還が求められます。

次に事業所名が公表されます。(事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称、所在地、概要、不正受給の金額・内容等)

そして今後3年間は雇用関係の助成金は利用できなくなります。そのなかでも悪質なものについては刑事告発されます。

なぜ不正受給がバレるのか?

昨今、助成金の不正受給が増えてきており、審査が厳しくなってきています。

申請の後、事前連絡なしで調査員の訪問があります。実地調査では、出勤簿、賃金台帳、支給申請に必要な書類が確認されます。さらに従業員にも聞き取り調査が行われることがあります。

従業員の聞き取りでは、「正社員として雇用が約束されていたかの確認」があります。正社員であるにもかかわらず、非正規社員の労働条件通知書にサインを依頼し、署名させることがあります。

しかし調査官の聞き取りで本人に確認した際に、正社員で雇用されたと正直に答えてしまい発覚するケースがあります。

また人材開発支援助成金の各訓練コースでは、Off-JT、OJTの実態がチェックされることもあり、訓練日であるにもかかわらず、講師と受講者が揃っていなかったり、該当時間にOff-JTがなされていないことが発覚することもあります。

助成金コンサルタントを名乗る業者の中には、「助成金の要件に合うよう、少し数字を改ざんすればOK」「実態のない研修をしたことにして書類を作成」などと顧客に勧めて助成金を不正に受給させているケースも見受けられます。

不正受給はささいなところから発覚します。ですので「少しくらい」「知らなかった」では済まされず、事業主の方は、行政、民事、刑事上のペナルティを覚悟しなければなりません。

不正受給した企業はホームページで公表されたり、ニュースとなり、取引先、顧客、社員、金融機関に知れ渡ることになり、社会的信頼をなくしてしま、事業継続の危機に直面するでしょう。

助成金の書類作成や申請代行できるのは「社労士だけ」

会社宛にコンサルを名乗り電話やFAXで「助成金受給の申請」を誘う業者からの連絡を受けた経験があるのではないでしょうか。

厚生労働省のホームページにも警鐘を鳴らす書面が掲載されています。

「厚生労働省の関与を誤解させる表現を用いた助成金に関する勧誘に御注意ください。」
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/160930.html
引用厚生労働省のホームページ

助成金コンサルタントや経営コンサルタントを名乗り、「どんな会社でも受給できます」とか「100%もらえます」や「商談時に膨らませた金額を伝え、これだけもらえます」など甘い言葉で勧めてきます。

そしてコンサル会社に高額な着手金を支払ったにもかかわらず、着手しなかったり、当初の話の通りに助成金の受給ができず、詐欺まがいの被害に遭遇するケースが発生しています。

その上、社労士でない者の助成金の支援サービスによって事業主が不正受給の違反を問われ、結果、社名を公表されれば、社会的信用を失墜させることになります。

助成金の申請代行を行うことができるのは、基本的に国家資格である社会保険労務士(社労士)の資格保有者のみです。

仮に同じ費用を支払うとしたら、どちらに委託するでしょうか?懸命な事業主のあなたなら間違えることはないはずです。

税理士や、司法書士では申請することはできません。助成金を正しく受給するためには、社労士に依頼する様にしましょう。